【創作小説】くまきちロボがやってきた
2030年、東京都では住民サービスの一環として一世帯につき一台、家庭用のロボットが配布されることになった
ロボットと言ってもみんなに同じ機種が配られるわけではなく、各世帯のニーズをAIが分析し、その家にあったロボットをオーダーメイドで作って送ってくれるらしい
例えば少しズボラな向かいの家には家事代行に特化したロボット、右隣の家には高齢で視力が落ちている夫婦のために新聞を読み上げることが好きなロボットが送られてきたそうだ
ひるがえってうちのロボットなのだが、正直これが一体なんの役に立つのか分かりかねている
まず初対面での挨拶からして彼はどうも融通が効かないところがあった
クマキチです〜
ニックネームはクマキチ〜
12月3日生まれのイテザ〜
一通り自分の名前を生年月日を述べたのち、彼はめっきり押し黙ってしまった
お前の星座なんて誰も聞いてないぞ
次に正式名称とニックネームが同じってなんなんだ
そして俺の名前は聞かないのかよ
彼の名前だという「クマキチ」というのがどこから来ているのかはわからないが、全身が白く塗装されており、見方によっては白くまにも見えなくはないから、一応はクマ型ロボットと言うことになるのだろうか
ならば、彼は力仕事をすすんでやってくれるロボットではないのか、と思って試しに通販で買った折りたたみテーブルを玄関に放置してみた
クマ型ロボットならば、持ち前のその腕力を生かして家の中まで運び込んでくれるはずだ
なんならそのまま組み立てもやってくれるかもしれない
しかし、そんな期待を裏切るようにくまきちロボは寝室のベッドから一向に動こうとしなかった
よくよく観察してみると、彼が動くのは食事と風呂の時だけ
それ以外は基本ベッドでごろごろして一日を過ごしているのであった
朝も大体昼過ぎまで寝ているので、このロボにはもはや朝のモーニングコール機能さえ期待することができない
「なんなんだ、こいつは」
クマ型ロボットというから力仕事を期待していたがとんだ期待はずれだった
いや、待てよ、ある意味これだけグータラしてるっていうのは本物の熊に近いところはあるのかもしれないな
それならこのロボットは愛玩動物として可愛がる対象として作られたのではないだろうか
そんな第二の仮説をもとに、くまきちロボをまじまじとみてみたが、愛玩動物としてみるには、あまりにも、その容姿は疲れ果てたおっさんじみていた
頭頂部を除いて無造作に生えている髪の毛とゲジゲジの太い眉
性格も愛想がいいわけではなく、どちらかというとふてぶてしい
「こんなのをみていて誰が癒されるというんだ」
そんな悪態が口をついてしまうのも、実際にこのロボットを前にすればきっと理解してくれるに違いない
さて、そんなわけでくまきちロボの用途は依然として謎のままで、そのまま何事もなく一ヶ月が過ぎた
ある日、仕事から帰るとリビングでくまきちロボが目をぱちくりさせていた
あまりの不自然な動作に思わず
「なんだぁ?」
と言ってしまった、次の瞬間
まいにち紅茶 おねがいや
青汁つまりお茶を 食べた
めちゃくちゃ赤い 燃えるたましい〜
なんとロボは突然歌を歌い始めた
しかも曲と歌詞の感じをみるに、自作曲らしい
曲が曲なら感動して涙を流すところだったが、曲を聴き終えての私の反応はというと
「なんだぁ?」
という相変わらずの言葉が出てきただけだった
曲も別に記憶に残るフレーズとかもないし、歌詞にいたってはもはや若干支離滅裂である
「もしやこれは出来損ないの楽曲作成ロボットではないのか」
とんだはずれを引いてしまったものだ
これじゃあなんの取り柄もないただの二足歩行ロボットじゃないか
それ以来、私はくまきちロボに何かを期待するのをやめて、彼をいないものとしてただ自分の生活を今まで通り送ることにした
〜〜〜
ある日、職場でとても嫌なことがあった
帰り道、辞表を出すのは簡単だが、そうしてたどり着いた会社も今回でもう4社目であり、また同じことを繰り返すのか、という思いもありどうするべきか逡巡していた
そんなことを考えながら玄関に入ると中でまたロボが目をぱちくりさせていた
あいをさけぶ ラブなあいつ〜
ひかりだした こけしミステリアス〜
クッキークッキー ライフワークや〜
はらいっぱい 食べ放題バナナ〜
彼が歌い終わった瞬間、身体から力がふっと抜けた自分がいた
彼の歌は、相変わらず支離滅裂で意味不明な歌詞とよくわからない謎のメロディーの組み合わせだったが、気づくと私の顔は微笑んでいた
「やっぱりこれは出来損ないの楽曲作成ロボットだ」
出来損ないだけど、まだ返品の予定はない
了
元ネタ